Isamu Saitoh のDigital Camera講座Vol 01

 

 

第1回デジタルカメラの魅力って何?

はじめに

最近、急速に普及しているデジタルカメラは携帯電話のカメラを含めれば把握できない

ほどの数が所有されているに違いない。その理由はいったい何処にあるのだろうか?

つい4-5年前まではポジフィルムやネガフィルムで十分満足していたはずである。

この社会現象とも言える状況は歯科界も例外ではない。

この背景にはPCの急速な開発があり、10年前のPCのスペックはHDDGBCPU

 Intel486程度でOSWindows95)がやっと起動する程度であった。

とうていデータ容量の大きくなる画像データを扱うには不可能であり、今では当たり前

のように使用している現在のPCスペックは夢物語であったといっても過言ではない。

しかし、デジタルカメラも水面下で同等の開発が進められており、スピードが命の報道

関係では通信などの周辺環境が整うに連れてデジタルカメラが使用され始めていったの

である。カメラマンが撮影したフィルムを待機しているライダーが現像所まで運び、

現像が完了した映像を締め切りに間に合わせることでスクープの価値が評価されていた

現実に対し、世界中からのデータ送信や撮影場所を証明するGPS機能などデジタルカメ

ラの魅力は計り知れないものがあったろう

 

デジタルカメラの優位性

 

歯科におけるデジタルカメラの優位性を考えた場合表1の内容があげられる。

 

表1  歯科におけるデジタルカメラの優位性

 

1.                        ヒューマンエラーの冷静な検討

2.                       客観性の高いコミュニケーション

3.                        歯科医師・歯科技工士 双方の時間を有効に活用

4.                        処理スピードの速さから起因するアポイント回数の削減

5.                        診断・補綴設計のシミュレーション

6.                        画像管理時間の削減

7.                        ランニングコストの削減

8.                        保管スペースの削減

9.                        デジタルテイクシェードの客観性と正確性

 

 

まず、歯科医師と歯科技工士のコミュニケーションが文章と電話からメールと添付画像

に移行することにより、画像を双方で観察しながらのコミュニケーションは考えられな

いほど充実することになる。例えば印象の良否の基準は意外と正確に伝わっていないこ

とが多い。なにより、連絡を受ける側には観察するモデルが無いことが最大の欠点であ

 

 

 

 

印象面を観察するよりも石膏模型で観察した方が解りやすいのと同じように、石膏模型

を直視するよりも画像化したほうが客観的に受け入れることができる。さらに画像にマ

ークをすると誰もが場所を特定して客観視し、確な会話が成り立つことになる。

結果として無駄な模型製作をしなくて済むことになるし、設計上の問題点と妥協点を適

切に検討しあうことができるようになるのである。さらに、排列や形態・色調などの微

調整は言葉で表現できるものではなく、画像が総てを物語ってくれることは周知の事実

である。これらはポジでも可能なことのように思われるかもしれないが、やはり処理ス

ピードの面で大きな差が患者のアポイントの回数となって現れるのである。

現在一般的に行われている診断用Wax-upは、患者に説明することも兼ね備えるのであれ

ば物足りないであろう。しかし、デジタル加工した画像を加えることで治療後のイメー

ジが想像できるようになり、患者の理解を深めることができる。

また単純な加工であれば5分程度でできることもデジタルカメラの画像データによる優位

性である。

   

初診                         診断シュミレーション

 

Wax−upは客観性に欠ける

 

ポジとデジタルのランニングコスト

 

デジタルカメラには無駄なアポイントの回数を削減し、立ち会いなども含めた製作時間

を総合的に減少させスムーズ且つ確実な治療と補綴をアシストする可能性がある。また

検討項目を整理して事前に画像をメール添付しておけば、休憩時間や診療終了後の時間を

利用することで歯科医師・歯科技工士双方の作業時間を割くことなくコミュニケーショ

ンが可能になる。デジタルカメラの魅力はなんといってもそのスピードと合理性にあり、

副産物としてランニングコストの面でも遥かにアナログをしのいでいる。ポジフィルム

1ヶ月あたり10本使用するとしてランニングコストを計算してみると、想像以上の差が

あることに驚かされる(表2)。デジタルカメラを購入したいので何を選択すれば良い

のかと問い合わせを受けることが多いのだが、誰もが高価であることを主張する。

しかし、年間コスト計算をすれば、ミドルクラスのデジタルカメラであれば、3年分のラ

ンニングコストで購入できてしまうのである。さらに、表面化しないコストとして重要

なのは、保管スペースにある。

 

 

確かにスライドの表現力には魅力がある。しかし、スライドの継時的退色性は避けられ

ない現実であり、湿度管理を考へてのドライキーパー保管や増え続けるスライドのスペ

ース確保には悩まされるものである。デジタルであれば、DVDに書き込みをした場合は

 何百分の1で済んでしまう。また、大容量HDDを常用書庫として使用することで、

患者ごとに今までの治療経緯が瞬時に検索できる。これはポジをフィルムスキャ

ナでスキャニングすれば同じ事と言えそうだが、ポジをスキャニングするためには新た

なコストと膨大な時間を要し非現実的といえる。

 

  

  

 

デジタルカメラの画質

 

さて、スピード・客観性・コミュニケーション・ランニングコスト・スペースなどでデ

ジタルに優位性があることは理解していただいたことと思うが、肝心の画質に関する項

目はどうであろうか?一言でデジタルカメラといっても画素数やボディー性能によって

多機種の一眼レフが存在する。

 

値段の差が画質の差といえるか?

1,370万画素を誇るKodak DCS Pro 14n

 

1,240万画素のNikon D2X

 

 

総てをサンプリングすることに無理はあるが、今回サンプルとして比較したカメラは一

眼レフデジタルカメラで、ミドルクラスとハイエンドモデルの4機種である。

比較対照となっているポジの画像はNikon F5で撮影し、使用フィルムはKodak EPYであっ

た。それぞれの写真を見比べてみると、デジタル一眼レフカメラの画質はポジと比較して

もさほど変わるものではないように感じるが、一部分を拡大すると滑らかさや階調表現・

立体感などは多少差が出ているようである。

 

   

Nikon F5で撮影  使用フィルムはKodak EPY

  

Kodak DCS Pro14n

  

Nikon D100

  

Nikon D1X

  

Canon Eos 1DS

 

 

では、歯科の分野で使用するに当たりこれらのデジタル画質は使用可能なのか検証して

みよう。

同一口腔内を上の3機種とスタンダードクラスのNikon D70で撮影してみると

上の画像比較とはまったく異なった色調を表現する画像となってしまった。

 

  

Nikon D70

  

Canon 1DS

  

Nikon D1x

  

異質なリアル特性をもつKodak DCS Pro14n

 

この原因は上の写真は同じ光源下での撮影であるのに対し口腔内撮影のためストロボ

を撮影光源にしているからであり、ストロボのスペクトル分光分布とカメラの設定が合って

いないために起こる現象で、フィルムの科学反応よりもCCD/CMOSの電気信号のほうが顕著

に現れてしまう。

筆者のI.S.Color Valance Systemを使用すると右の写真のように比較的近い画像となる

I.S.Color Valance System)。

さらに、中切歯の一部分を拡大するとストロボの入射角度による影響も考慮した上で観察し

ても透明感と立体感の表現に差が出ていることが確認できる。

 

  

Nikon D70              Canon Eos 1DS

  

Nikon D1X             Kodak DCS Pro14n

 

レンズ性能や画像処理性能などの影響もあるがCCDCMOSの画素数の違いによるところが

大きい。緻密な画像表現には1000万画素がひとつのボーダーのような気がする。しかし、

実際の使用目的を考えてみると、一般的にはL判プリントで最大A4プリントをコンサルテー

ションや技工物製作時の資料添付、モニター観察レベルでの治療記録・プロジェクターでの

プレゼンテーション・最大幅10cm.の印刷のための文献投稿データに過ぎないだろう。

この現実からすると現在の一眼レフデジタルカメラは十分な画質と描写力を持っていると

いってよい。